2022/05/20:筆頭論文が公刊されました

筆頭論文が「Comprehensive Psychoneuroendocrinology」に掲載されました。

<解説>
他者からの否定的な評価への恐れに特徴づけられる社交不安症患者は,健常者よりも心理的ストレッサーに対して強いコルチゾール反応を示し, 特にストレッサーが終わった後の反応の持続(回復のしにくさ)に特徴があることがメタ分析で明らかにされています(前田他,2016)。 ですが,その回復のしにくさのメカニズムを調べる研究があまりなされてきませんでした。 この研究では,社交場面が終わった後でその場面について考え続けてしまうこと(Post-Event Processing)が回復を妨げる可能性に着目して, 一定以上の社交不安症状がある方に対して対人ストレス負荷課題の後に,ディストラクション(気ぞらし)とPost-Event Processingを行ってもらう条件それぞれでコルチゾール値の回復の速さを比較しました。 結果としては,条件間で回復の速さに差はみられませんでした。操作の強度をはじめとして,再検証が望まれます。

<補足>
この研究のベースとなっている「社交不安症患者は健常者よりも強いコルチゾール反応を示す」という前提自体も再考の余地があると感じています。 従来の研究では実際にそのような報告は多く,私達のメタ分析としてもそれが支持されましたが,例数の少なさをはじめとしてデータの質に課題が残る研究も多くありました。 厳密な条件統制を行い,比較的多くの例数を確保した近年の研究では,むしろ社交不安症患者は健常者よりも反応性が低いという知見が得られています(Petrowski et al., 2021)。 これは,社交不安症患者が対人場面への恐れを慢性的に感じているため,急性ストレッサーにさらされても適切に応答しにくくなっているためだと解釈されています。 唾液検体の分析のコストや,参加者のリクルートの困難さもあって,多くの例数の確保が難しい領域ではあるのですが,ここでも研究知見の再現性が課題になっていると感じます。 時間をかけてでも,確実性の高い知見を提供できるような研究計画をますます大事にしていきたいと考えています。

<書誌情報>
Maeda, S., Moriishi, C., Ogishima, H., & Shimada, H. (2022). The effect of distraction versus post-event processing on cortisol recovery in individuals with elevated social anxiety. Comprehensive Psychoneuroendocrinology, 11, 100142. https://doi.org/10.1016/j.cpnec.2022.100142